雲心月性...

慈愛する和歌を拙筆くずし字で紹介致します。

夜半の月かげに宿る思ひ──『めぐり逢ひて』の余情と象徴性をめぐって

夜半の月かげに宿る思ひ──『めぐり逢ひて』の余情と象徴性をめぐって

                                 多紀理

 

第一章 はじめに


 和歌の一首は、三十一音という限られた語数のなかに、時に人生の機微や時空を超えた情感までも包み込みます。そのなかで『新古今和歌集』巻第十六「雑上」に収められ、『百人一首』第五十七番としても名高い「めぐり逢ひて 見しやそれとも 分かぬ間に 雲隠れにし 夜半の月かげ」は、特に濃密な余情と象徴性を宿した一首として、長きにわたり人々の心をとらえてまいりました。

 

 本歌は『新古今和歌集』において「紫式部」の作として伝えられておりますが、その成立は紫式部の没後およそ二百年後であり、確証に乏しい点がございます。実際、紫式部集』にはこの歌は見られず、『源氏物語』にも引用はされておりません。したがって、「紫式部作」とする伝承は後世の仮託によるものである可能性が高いと考えられております(久保田淳『新古今和歌集全評釈』、佐々木幸綱『百人一首のすべて』参照)。

 

 このような「紫式部作」とする伝承の由来には、『新古今和歌集』や『百人一首』において撰者である藤原定家が、平安期女流歌人の象徴としての紫式部にこの歌を託した可能性が影響しているとされております。その美的象徴性や詠風の類似から、定家による仮託がなされたとの見方もございます。

 

 本稿では、この和歌が内包する時の感覚、記憶と象徴の構造、さらにはその詩的美学について、表現技法・時間構造・象徴性の三側面から詳細に考察し、その文学的深みを明らかにしてまいります。

 

第二章 歌の出典と伝承


 本歌「めぐり逢ひて」は、『新古今和歌集』巻第十六「雑上」に収められており、撰者は藤原定家をはじめとする鎌倉時代の和歌改革者たちでございます。同集は、古典和歌に新たな幽玄・有心の美を吹き込んだ勅撰和歌集として、後世の歌風に決定的な影響を与えました。

 

 また、この歌は『百人一首』第五十七番にも採られており、そこでも「紫式部」の作とされています。これが紫式部作という俗説を広める契機となったと考えられます。ただし、前述のとおり、紫式部集』には収録されておらず紫式部自身の確かな作とは断定し難い状況にございます。

 

 紫式部作とする俗説の成立には、『新古今和歌集』や『百人一首』の撰者である藤原定家の意図が大きく関わっていると推測されます。平安朝の女流文学を象徴する存在としての紫式部に、夢幻的な抒情を帯びた本歌を仮託することで、歌の象徴性を一層高めようとしたのではないかとされております(本間久雄『新古今時代の和歌研究』参照)。そのため、後世の読者はこの歌を紫式部作と信じて疑わず、現在にいたるまで広くそのように認識されてきたのでございます。

 

 したがいまして、本歌の作者は伝承上は紫式部とされながらも、確定的な資料に欠けることから、学術的には「伝・紫式部作」または「作者未詳」として取り扱うのが妥当でありましょう。

 

第三章 歌の表現技法と象徴性


 本歌の最大の魅力は、視覚的かつ象徴的な語彙の選択にございます。中でも「夜半の月かげ」「雲隠れにし」といった語句は、自然の事象を借りながらも、心情の奥深さや移ろいを詠みあげております。

 

「夜半の月」は、平安和歌において孤独・思慕・喪失の象徴としてたびたび用いられます(伊藤博古今和歌集全評釈』参照)。ことに「夜半(よは)」という語は、昼の世間的な喧騒とは隔絶された時を指し、夢幻や記憶との境界にあたる時間帯でもあります。そこに見える「月かげ」は、実体よりもむしろ、「消えつつあるもの」の象徴と読まれましょう。

 

 また「雲隠れ」という語は、単なる視界の喪失にとどまらず、時に死や永久の別れの婉曲表現としても用いられてまいりました(『源氏物語』第四十一帖「雲隠」参照)。ここでは、再会を果たした相手が、見えたかと思う間もなく、まるで死者のように再び彼方へと姿を消してしまった──その哀しみと儚さとが、象徴的に表されているのでございます。

 

「見しやそれとも 分かぬ間に」という句は、認識と実感の狭間を詠んでおり、夢か現実かすら判然としないうちに別れが訪れるという、「一瞬の長さ」とも申すべき時間感覚が漂います。短い中にも、繊細な余白と感情の振幅が響いており、和歌の持つ凝縮された美が、ここに結晶しているように思われます。

 

第四章 時間構造と記憶の作用


 本歌が醸し出す美しさの根幹には、「時間の層」の表現がございます。冒頭の「めぐり逢ひて」によって提示される「再会」という主題は、過去の記憶に根ざしたものでございますが、その直後に「見しやそれとも分かぬ間に」と続くことにより、感情は現在の時間軸上に引き戻されます。そして「雲隠れにし夜半の月かげ」と詠嘆することによって、歌全体が再び、現在から不可逆的に過去へと移ろう瞬間を表しているのでございます。

 

 このように本歌では、記憶と現実、過去と現在が交錯し、わずか三十一音のなかに多層的な時間の運動が見られます。とりわけ「雲隠れ」という語の使用によって、その時間の断絶が決定的なものとなり、再会がもたらす歓びと、それが即座に失われる哀しみとが、ひとつの瞬間に共存するように設計されております。

 

 このような時間構造は、しばしば夢の時間に喩えられ、覚醒と忘却のはざまに漂うような感覚を読者に与えます。それゆえにこの歌は、単なる再会の哀切を詠んだものではなく、再会という現象そのものの曖昧さと儚さ、そしてそれに対する人の無力さを象徴していると申せましょう。

 

第五章 同主題を詠んだ他歌との比較


 本章では、「めぐり逢ひて」と類似の主題を持ち、再会・別離・記憶といった感情の層を扱った他の和歌との比較を通じて、本歌の特色を浮き彫りにいたします。

 

 まず注目すべきは、小倉百人一首における和泉式部の一首「かくとだに えやはいぶきの さしも草 さしもしらじな 燃ゆる思ひを」でございます。この歌もまた、一方的な思慕を詠じたものであり、届かぬ思ひを自然物になぞらえた象徴的表現が際立っております。本歌が再会からの別離を主題とするのに対し、和泉式部の歌は一度も交わらぬ思ひの炎を詠んでおりますが、いずれも「人には見えぬ思ひの内側」を可視化するために自然の象徴を援用している点において通底していると申せましょう。

 

 また、『後撰和歌集』所収の壬生忠見の「恋すてふ わが名はまだき 立ちにけり 人知れずこそ 思ひそめしか」も比較の対象となり得ます。この歌では「人知れず始めた思ひ」が噂となって顕在化するという逆説的構造が表れており、見えぬ感情と顕れる現象との対比がなされております。本歌の「雲隠れにし夜半の月かげ」もまた、見えていたはずのものが忽然と姿を消すという逆転性において、同様の詩的装置を有しているといえましょう。

 

 さらに『新古今和歌集』には、後鳥羽院の「たとへばや たなばたつめの ぬぎかけし 天の羽衣 人の見るらむ」という、再会の希薄さを天上の衣に託して詠んだ歌もあり、これと本歌を並べることで、「触れ得ぬもの」「永久にすれ違うもの」としての人間関係の儚さが、一貫した和歌的主題として浮かび上がってまいります。

 

 このように、本歌「めぐり逢ひて」は、古今を通じた和歌の恋歌的系譜の中でも、「再会の儚さと象徴的消失」を主軸に据えた点において、比類なき繊細な詩情を湛えた作品であると申せましょう。

 

第六章 補注とおわりに


 本歌が「紫式部作」とされてきたことについては、近年の和歌研究において再検証が進められております。たとえば久保田淳氏は、撰者である藤原定家が『源氏物語』の世界観と『新古今和歌集』の審美的指向とを重ね合わせ、紫式部の名を借りて本歌を位置づけたのではないかと述べております。

 

 また、本歌の収録が『新古今和歌集』の「雑上」巻にあることも注目されます。「雑上」は特定の恋・季節といった主題に収まりきらない感情の複雑性や、表現の抽象性を受け止める巻として編まれており、その配列自体が本歌の「曖昧さ」「余情性」を形式的にも補強していると考えられます。

 

 本稿において扱った歌の比較、象徴性、時間構造の分析を通して見えてまいりましたことは、本歌が単なる恋の再会を詠んだものではなく、現実と夢幻、生と死、記憶と忘却のはざまを詠む、極めて多層的な作品であるということでございます。

 

 そのため本歌は、後代の多くの詠み人びとにとっても、単なる恋の回想ではなく、「見えないものに託された思ひ」そのものを象徴する、和歌表現の一つの到達点として、位置づけられるに相応しい作品でありましょう。

 

参考文献


・久保田淳『新古今和歌集全評釈』角川書店1998

伊藤博古今和歌集全評釈』講談社学術文庫2004

・佐々木幸綱『百人一首のすべて』講談社現代新書2003

・本間久雄『新古今時代の和歌研究』岩波書店1952

・冷泉為臣編『新編百人一首岩波文庫1994

 

 

 

 


 

tagiri.hatenablog.com

 

 

マツモトキヨシ

【キャッシュバック特典】NURO Mobile

NUROモバイル ソニーネットワークコミュニケーションズ

 

 

————————————————————————
【ご紹介された方限定】Ploom AURA を14日間お試ししませんか?】

■ Ploom AURA フリートライアルのポイント

1. お申し込みは無料&事前お支払い手続きも不要で、簡単にお申し込みできます
2. Ploom AURA とたばこスティック(9種類×1箱ずつ)を14日間お試しいただき、アンケートにご回答いただきます
3. 14日間のフリートライアル後、Ploom AURA をご購入(1,480円)又はご返却のどちらかをご選択ください
4. ご返却をご希望される場合も送料はかかりません


詳しくは以下URLをご確認ください。

https://www.clubjt.jp/brand-site/ploom/contents/free-trial/?t=44af5b699c2d4514a24c8b3a4be2b1fb

 
————————————————————————

PR