雲心月性...

慈愛する和歌を拙筆くずし字で紹介致します。

2025-07-01から1ヶ月間の記事一覧

萬葉集  巻第五   雑歌 梅花の歌三十二首并せて序

萬葉集 巻第五 雑歌 梅花の歌三十二首并せて序 天平二年正月十三日に、師の老の宅に萃まりて、宴会を申く。 時に、初春の令月にして、気淑く風和ぎ、梅は鏡前の粉を披き、蘭は珮後の香を薫す。 加之、曙の嶺に雲移り、松は羅を掛けて蓋を傾け、夕の岫に霧結…

源氏物語 各巻冒頭文 松風

松風(まつかぜ) 巻名 明石の君が爪弾かれます琴の音に応じるように響いてまいります「松風」の調べによって、大堰の御邸にお移りになられました明石の君方の、胸ふさがるような寂しさや物思いが、象徴的に浮かび上がってまいります巻名でございます。 本文…

源氏物語 松風 十六首

松風 十六首 行く先を はるかに祈る 別れ路に 堪へぬは老いの 涙なりけり明石の入道(唱和歌) 【意訳】 姫君の行く末のしあわせを願う別れに際しまして、どうしても堪えきれぬもの、それは年老いたわが身の涙にございます。 ※明石の姫君とその一行が都へと…

源氏物語 各巻冒頭文 絵合

絵合(ゑあわせ) 巻名 藤壺女院さまの御前、また冷泉帝陛下の御前におかれまして、ふたたび催されました絵合の御行事にちなんでおります。 本文 前斎宮の御参りの事、中宮の御心に入れてもよほし聞え給ふ。こまかなる御とぶらひまで、とり立てたる御後見も…

源氏物語 絵合 九首

絵合 九首 別れ路に 添へし小櫛を かことにて 遥けき仲と 神やいさめし朱雀院 ⇒ 前斎宮〈六条御息所の娘〉(贈歌) 【意訳】 別れの折にお贈りした小櫛が因となって、はるか遠く隔てられたご関係となるよう、神がお定めなさったのでしょうか。 ※伊勢下向の折…

源氏物語 各巻冒頭文 関屋

関屋(せきや) 巻名 光源氏と空蝉が、逢坂の関にて偶然にめぐり逢ったことによる題でございます。 本文 伊予の介と言ひしは、故院かくれさせ給ひて又の年、常陸になりて下りしかば、かの帚木もいざなはれにけり。須磨の御旅居も遙かに聞きて、人知れず思ひ…

源氏物語 関屋 三首

関屋 三首 行くと来と せき止めがたき 涙をや 絶えぬ清水と 人は見るらむ空蝉(独詠歌) 【意訳】 人の往き来の絶えぬ逢坂の関にて、せきとどめようもなくこぼれ落ちるこの涙を、清らかなる泉のごとくと思われるのでしょうか。 ※「せき止めがたき」に「(逢…

源氏物語 各巻冒頭文 蓬生

蓬生(よもぎふ) 巻名 「蓬生(よもぎふ)」とは、蓬の生い茂る荒れ果てた住まいを象徴的にあらわす歌語でございます。本巻の女主人公のお住まいが荒れ果てていたことに因みます。 本文 藻塩たれつつ侘び給ひし頃ほひ、都にも、さまざま思し嘆く人多かりし…

源氏物語 蓬生  六首

蓬生 六首 絶ゆまじき 筋を頼みし 玉かづら 思ひのほかに かけ離れぬる末摘花 ⇒ 侍従(贈歌) 【意訳】 あなたさまとは、決して縁の絶えることなどあるまいと信じておりましたのに、思いがけなく、遠くへと離れて行かれてしまわれたのですね。 ※末摘花の叔母…

新勅撰和歌集  恋三  849 百人一首 97番歌

建保六年内裏歌合、恋歌 新勅撰和歌集 恋三 849 権中納言定家 来ぬ人をまつ 帆の浦の夕なぎに 焼くや藻塩の 身もこがれつつ 画像転載元 国立国会図書館デジタルコレクション http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2541162 意訳 訪れてはくださらぬ方をひたす…

新古今和歌集 巻第十三 恋歌三 1189

新古今和歌集 巻第十三 恋歌三 1189 三条関白女御入内の朝に遣はしける 花山院御歌 朝ぼらけ置きつる 霜の消えかへり 暮待つほどの 袖を見せばや 新編日本古典文学全集「新古今和歌集」(訳者 峯村文人 小学館)の訳 三条関白の女御の入内の朝に詠み贈った歌 …

沈黙の知と日本文化

うつし世に、言葉なきものの光を見て――沈黙の知と日本文化 多紀理 一、はじめに──語らぬことの価値 今日、私たちが生きる社会は、言葉に満ちあふれております。あらゆるメディアや通信手段を通じて、言葉が飛び交い、絶えず意味が生産され、消費されておりま…

新古今和歌集 巻第十三 恋歌三 1190

新古今和歌集 巻第十三 恋歌三 1190 法性寺入道前関白太政大臣家歌合に 藤原道経 庭に生ふる夕かげ 草の下露や 暮を待つ間の 涙なるらん 新編日本古典文学全集「新古今和歌集」(訳者 峯村文人 小学館)の訳 法性寺入道前関白太政大臣の家の歌合に 藤原道経 庭…

新古今和歌集 巻第十三 恋歌三 1191

新古今和歌集 巻第十三 恋歌三 1191 題知らず 小侍従 待つ宵に更けゆく 鐘の声聞けば あかぬ別れの 鳥はものかは 新編日本古典文学全集「新古今和歌集」(訳者 峯村文人 小学館)の訳 題知らず 小侍従 通ってくる人を待つ宵に、夜の更けていく時を告げる鐘の声…

紫式部集 3

紫式部集 3 「箏の琴しばし」といひたりける人、 「参りて、御手より得む」とある返事に 露しげき蓬が 中の虫の音を おぼろけにてや 人のたづねむ 意訳 「箏の琴を、しばしお貸しくださいませ」とおっしゃっていたご友人が、「やはり直にお目にかかり、みず…

「老人と海」に奏でる通奏低音――沈黙の海が語る祈りと愛の調べ

「老人と海」に奏でる通奏低音――沈黙の海が語る祈りと愛の調べ 多紀理 【序章――海という通奏低音のはじまり】 アーネスト・ヘミングウェイの小説『老人と海』は、一見すれば、老漁夫と巨大な魚との静かなる対峙を描いた物語のように思われがちでございます。…

紫式部集 1. 2.

紫式部集 1. 2. はやうよりわらは友だちなりし人に、年ごろへて行きあひたるが、ほのかにて、十月十日のほど、月にきほひて帰りにければ、 めぐり逢ひて 見しやそれとも わかぬまに 雲がくれにし 夜半の月かげ その人、遠き所へいくなりけり。秋の果つる日来…

綾に通う想い

綾に通う想い ― 徳川家茂公と和宮親子内親王のご縁をめぐって ― 多紀理 はじめに 幕末という歴史の奔流のただなかにおいて、政治的混迷が深まる中、江戸幕府第十四代将軍の座に就かれましたのが、十九歳の若さをもって選ばれた徳川家茂公でございました。そ…

源氏物語 各巻冒頭文 澪標

澪標(みをつくし) 巻名 住吉詣での折における、光源氏と明石の君との贈答歌──「みをつくし恋ふるしるしにここまでもめぐり逢ひけるえには深しな」「数ならでかにはのこともかひなきになどみをくつし思ひそめけむ」──を典拠としております。 本文 さやかに…

源氏物語 澪標 十七首

澪標(十七首) かねてより 隔てぬ仲と ならはねど 別れは惜しき ものにぞありける光源氏 ⇒ 宣旨の君(贈歌) 【意訳】 これまでとりたてて親しき間柄ではなかったとはいえ、いざ別れとなれば、心に堪えがたきものがございます。 ※宣旨の君との別れに際して…

うつし世の彼方より──『萬葉集』における〈声〉と〈時間〉の詩学

うつし世の彼方より──『萬葉集』における〈声〉と〈時間〉の詩学 多紀理 一 はじめに 『萬葉集』は、単なる和歌の集成ではなく、古代日本人の感覚世界、記憶の構造、そして声と言葉が交錯する「いのちの場」の記録である。そこには、文という静的な構築物で…

平安の色香──平安女性と和歌の織り成す心の風景

平安の色香──平安女性と和歌の織り成す心の風景 多紀理 序章:やまとごころの結晶としての和歌 和歌は、古代日本において最も端的に感情を凝縮し、ひとの心の襞を言の葉に託した表現である。その最盛ともいえる時代を迎えたのが、平安中期から後期にかけての…

言霊の綾渡し ― 山家集翻刻におけるこころの航路

言霊の綾渡し ― 山家集翻刻におけるこころの航路 ― 異本・表記・校訂の課題を中心に ― 多紀理 はじめに 本稿は、鎌倉初期の風雅を今に伝える歌集『山家集(さんかしゅう)』における翻刻作業の難渋さについて、多角的に掘りさげ、学術的にして温雅なまなざし…

夜半の月かげに宿る思ひ──『めぐり逢ひて』の余情と象徴性をめぐって

夜半の月かげに宿る思ひ──『めぐり逢ひて』の余情と象徴性をめぐって 多紀理 第一章 はじめに 和歌の一首は、三十一音という限られた語数のなかに、時に人生の機微や時空を超えた情感までも包み込みます。そのなかで『新古今和歌集』巻第十六「雑上」に収め…

言葉の襞に宿る想い――紫式部に学ぶ和歌の重層的暗号性

言葉の襞に宿る想い――紫式部に学ぶ和歌の重層的暗号性 多紀理 はじめに 和歌とは、たんに思いを詠むものではない。ある種の沈黙のなかに響く、かすかな声の断片であり、読み手の感受性と教養、そして時に通じ合った心の文脈によって、その声ははじめて意味を…

源氏物語 各巻冒頭文 明石

明石(あかし) 巻名 源氏が須磨より明石の地へと遷られたことに因みて名づけられました。和歌にもいくつか、「あかし(明石)」の語が詠み込まれております。 本文 なほ雨風やまず、かみ鳴り静まらで日頃になりぬ。いとどものわびしき事数しらず、来し方行…

源氏物語 明石 三十首

明石 三十首 浦風や いかに吹くらむ 思ひやる 袖うち濡らし 波間なきころ紫の上 ⇒ 光源氏(贈歌) 【意訳】須磨の浦では、どれほど荒れ狂う風が吹いていることでしょう。あなたを案じ、涙に濡れた袖の乾く間もないこの頃です。 ※紫の上が都にて、源氏の安否…

源氏物語 各巻冒頭文 須磨

須磨(すま) 巻名 光源氏の須磨退去にちなみ、この巻名がつけられております。「須磨」という地名は、源氏が都を離れてゆく折、御消息のやりとりに詠み込まれた幾首かの和歌の中に見えてまいります。 本文 世の中いとわづらはしく、はしたなき事のみ増され…

源氏物語 須磨  四十八首

須磨 四十八首 〔1〕 鳥辺山 燃えし煙も まがふやと 海人の塩焼く 浦見にぞ行く 意訳: 昔、鳥辺野で立ち上がった焼け跡の煙と、今見ている海人の塩焼きの煙がまるで同じように思えて、私は須磨の浦へ向かってしまったのです。 注釈:「浦見」に「恨み」がか…

沖津島日記 9. 「あいそめきたるさま、興ざめにおぼゆること」

あいそめきたるさま、興ざめにおぼゆること ある人の、同じ師のもとに学びけるらしき者ども、互ひに顔を綻ばせつつ、これ見よがしに褒めそやし合へるさまを、うち見たるに、ことにそれ、男どもにてあるならば、いとあいそめきたる気色にて、何となう馴れ馴れ…