雲心月性...

慈愛する和歌を拙筆くずし字で紹介致します。

2025-05-01から1ヶ月間の記事一覧

うつろふこころを訳すとき──古典和歌の英訳をめぐる省察

うつろふこころを訳すとき──古典和歌の英訳をめぐる省察 多紀理 はじめに 和歌は、わが国における古典文学の中でも、ことに繊細で奥ゆかしい表現を特色とする詩型でございます。三十一音という限られた音数の中に、自然や人の情感をうつしとり、そこに託され…

新古今和歌集  巻第三  夏歌  204

新古今和歌集 巻第三 夏歌 204 題知らず 紫式部 たが里も訪ひもや 来ると郭公 心のかぎり 待ちぞわびしき 新編日本古典文学全集「新古今和歌集」(訳者・峯村文人・小学館)の訳 題知らず 紫式部 誰の里にも訪ねて来るのではないかと思って、ほととぎすを、一…

新古今和歌集 巻第十 羈旅歌 987

新古今和歌集 巻第十 羈旅歌 987 東の方へまかりけるに、よみはべりける 西行法師 年たけてまた 越ゆべしと思ひきや 命なりけり 佐夜の中山 教科書『国語総合』(第一学習社)の訳 東国の方へ下った時に詠みました歌 西行法師 年老いて再び越えることができ…

和歌における「見立て」および「本歌取り」の技巧と作者の主体性・創造性の関係性の考察

和歌における「見立て」および「本歌取り」の技巧と作者の主体性・創造性の関係性の考察――インターテクスチュアリティ理論を援用して 多紀理 はじめに 和歌は、古来より日本文化の精髄として、多くの人々に愛されてまいりました。その中でも、「見立て」や「…

風雅のこころとうつろひ

風雅のこころとうつろひ――『古今和歌集』と『新古今和歌集』における自然詠の美的理念の変容 多紀理 はじめに 〜山川にしるき心〜 日本の古典文学において、自然の情景は単なる背景ではなく、心情を映し出す鏡として詠まれ続けてまいりました。とりわけ和歌…

中世和歌における無常観の表現とその変遷—鎌倉期と室町期の比較を通じて

中世和歌における無常観の表現とその変遷—鎌倉期と室町期の比較を通じて 多紀理 はじめに 日本の中世和歌において、「無常観」はひときわ重要な主題として繰り返し詠まれてまいりました。草木の移ろい、花の盛りと散り際、あるいは人の命の儚さなどを題材と…

古今和歌集 付載  墨滅歌  巻第十 物名歌 1104

古今和歌集 付載 墨滅歌 巻第十 物名歌 1104 おきの井 みやこじま をののこまち おきのゐて身を 焼くよりもかなしきは 都島辺の 別れなりけり 古今和歌集(片桐洋一著、笠間文庫)の訳 真っ赤に燃えている火の上にいて身を焼くよりもせつないことは、都と島…

紫式部集 79 80

紫式部集 79 80 紫式部 79 久しくおとづれぬ人を思ひ出でたるをり 忘るるはうき世の 常と思ふにも 身をやる方の なきぞわびしき 返し 80 誰が里もとひもや くるとほととぎす 心のかぎり まちぞわびにし この歌は、『紫式部集』と『千載集』に掲載されている…

源氏物語 全体構造分析

源氏物語 全体構造分析 多紀理 源氏物語・写本理論の概要 「青表紙本」と総称される定家本系においては、重要視される順に以下の写本が挙げられます。 まず第一に、藤原定家自筆とされる写本(いわゆる「定家自筆本」)がございます。現存する巻としては、「…

中世和歌における仏教的思想表現と形式の緊張

中世和歌における仏教的思想表現と形式の緊張――西行・寂蓮・慈円を中心に―― 令和七年度 春学期王朝和歌の理論と表現 提出レポート 氏名:宗像多紀理提出日:令和七年五月所属:⚫️⚫️大学大学院 文学研究科 ⚫️⚫️専攻 後期博士課程 問題3:中世和歌の思想的転回…

Seeking the Beauty of Wabi-Sabi: The Serene Sensibility Residing in the Japanese Heart

Seeking the Beauty of Wabi-Sabi: The Serene Sensibility Residing in the Japanese HeartBy Tagiri. When we are moved by the quiet elegance of a tea bowl or the hushed presence of a garden bathed in stillness, we often reach for the word wabi…

遍昭集 3

遍昭集 3 二月ばかり、道をまかるとて 折りつればたぶさに けがる立てながら 三世の仏に 花たてまつる 直訳 2月頃、道を下る 折ってしまうと手首に汚れがつくので、地上に立って生えているまま前世・現世・来世の三世の仏に花をさしあげる。 僧正遍昭(狩野…

新古今和歌集 巻第十三 恋歌三 1159

新古今和歌集 巻第十三 恋歌三 1159 伊勢 忍びたる人と二人臥して 夢とても人に 語るな知るといへば 手枕ならぬ 枕だにせず 新編日本古典文学全集「新古今和歌集」(訳者・峯村文人・小学館)の訳 人目を忍んで通ってきている人と二人で寝て 伊勢 夢の中のこと…

Edo: A City Woven by Stories and Power—Rewriting the Myth of the 'Cold Village'

Edo: A City Woven by Stories and Power—Rewriting the Myth of the 'Cold Village' by 多紀理 Was Edo truly a "cold village," and was Edo Castle indeed "crude"? It has often been portrayed that Edo was originally a desolate, cold village, flou…

見立ての美学と政治性──勅撰集から王朝物語における象徴的表現の位相

見立ての美学と政治性 ――勅撰集から王朝物語における象徴的表現の位相―― 令和七年度 春学期王朝和歌の理論と表現 提出レポート 氏名:宗像多紀理提出日:令和七年五月所属:⚫️⚫️大学大学院 文学研究科 ⚫️⚫️専攻 後期博士課程 問題2:和歌における「見立て」…

速須佐之男命 八雲立つ 日本最古の和歌

古事記 速須佐之男命 八雲立つ出雲 八重垣妻ごみに 八重垣つくる その八重垣を 意訳 幾重にも雲のわき立つ出雲の地にて、妻との新たな住まいにふさわしい地を見いだし、妻をやさしく包むように、幾重にも垣をめぐらせたいと願いました。 解説 この和歌を詠ん…

和歌の詞書と物語的文脈に関する考察

和歌の詞書と物語的文脈に関する考察 ――平安期の和歌叙述における視点と語りの諸相―― 令和7年度 春学期日本古典文学研究特講 提出レポート 氏名:宗像多紀理提出日:令和7年5月所属:⚫️⚫️大学大学院 文学研究科 ⚫️⚫️専攻 (問題1) 平安期の歌日記や歌物…

活用体系における思惟の型――古典文法が映す日本人の心のかたち

活用体系における思惟の型――古典文法が映す日本人の心のかたち 宗像多紀理 序章 日本語の文法体系、とりわけ古典文法における動詞・形容詞の活用体系は、単なる言語操作の技術ではなく、その背後にある思惟の型――すなわち世界や人間、他者との関係性に対する…

問題1:和歌の詞書と物語的文脈に関する考察 次の設問に答えなさい。 平安期の歌日記や歌物語、あるいは私家集に見られる詞書付きの和歌について、以下の点を踏まえて論じなさい。 詞書における叙述視点と和歌本文との関係 詞書が提示する物語的状況と、和歌…

『枕草子』と平安文化の符牒――清少納言が描いた恋と知の暗号

『枕草子』と平安文化の符牒――清少納言が描いた恋と知の暗号 多紀理 はじめに 清少納言による『枕草子』は、平安時代の中期、一条天皇の御代における宮廷生活を巧みに描き出した随筆でございます。平安時代とは、実に約四百年ものあいだ続いた日本の歴史上長…

遍昭集  新撰和歌 2 古今和歌集 春上 27

遍昭集 2 古今和歌集 春上 27 僧正遍照 西寺の柳を あさみどり糸より かけて白露を 玉にもぬける 春の柳か 日本古典文学全集(小学館)の訳 西寺の付近の柳を詠んだ歌 僧正遍照 新芽のついた枝を浅緑色の糸をより合わせたものとするならば、そこにおかれた白…

『紫式部集』諸本の比較考察 —— 定家本と古本系の本質的差異をめぐって

『紫式部集』写本の系譜と古本系学説への再考 ーー定家本をめぐる一考察 多紀理 『紫式部集』の伝本には、大きく分けて三系統が存します。すなわち、定家本系(代表は実践女子大学本。いわゆる流布本で、その写本数は数十本)、古本系(代表は陽明文庫本。異…

幻想第四次の旅路:宮沢賢治『銀河鉄道の夜』における次元と宇宙観の交差

幻想第四次の旅路:宮沢賢治『銀河鉄道の夜』における次元と宇宙観の交差 多紀理 はじめに 宮沢賢治の代表作『銀河鉄道の夜』は、単なる児童文学の枠を超え、哲学的・宗教的・科学的要素が融合した作品として高く評価されています。本作において、賢治は三次…

遍昭集 1

遍昭集 1 春 僧正遍照 花の色は霞に こめて見せずとも 香をだにぬすめ 春の山風 直訳 日本古典文学全集(小学館) 春の歌として詠んだ歌 僧正遍照 花の色のほうは霞に閉じ込められて見えない桜ではあるが、その山に吹いている春風よ、せめて匂いなりとも盗ん…

萬葉集 巻第六 925 新古今和歌集 巻第六 冬歌 641

萬葉集 巻第六 925 山部宿禰赤人 反歌二首 ぬばたまの夜の ふけゆけば久木生ふる 清き川原に 千鳥しば鳴く 新古今和歌集 巻第六 冬歌 641 題知らず 山辺赤人 むば玉の夜の 更けゆけば楸生ふる 清き川原に 千鳥鳴くなり 新編日本古典文学全集「新古今和歌集」…

萬葉集 巻第六 924

萬葉集 巻第六 924 山部宿禰赤人 反歌二首 み吉野の象山の 際の木末には ここだも騒く 鳥の声かも 新編日本古典文学全集「万葉集②」(訳者・小島憲之他・小学館)の訳 反歌二首 み吉野の象山の谷間の梢には、こんなにもいっぱい鳴き騒いでいる鳥の声々よ。 意…

萬葉集 巻第六 923

萬葉集 巻第六 923 山部宿禰赤人が作る歌二首 併せて短歌 やすみししわご大君の高知らす 吉野の宮はたたなづく 青垣隠り 川並の清き河内そ 春へには花咲きををり 秋へには霧立ち渡るその山の いやますますに この川の絶ゆることなく ももしきの大宮人は常に…

古典文法の深層へ──小西甚一『古文研究法』をめぐる精緻なる思索

古典文法の深層へ──小西甚一『古文研究法』をめぐる精緻なる思索 宗像多紀理 一、はじめに 小西甚一の著書『古文研究法』(明治書院、1964年)は、古典文学・古典語に携わる者にとって一つの金字塔といえる存在である。とりわけ大学院レヴェルで古典文学を専…

静けさに映るこころ ― 和辻哲郎『古寺巡礼』にみる日本的精神のかたち

静けさに映るこころ ― 和辻哲郎『古寺巡礼』にみる日本的精神のかたち 和辻哲郎が二十五歳の折に記した『古寺巡礼』は、日本近代思想史において稀有な存在感を放つ随想録でございます。明治末期という文明転換の時代において、仏教美術を見つめながら、彼は…

ひそやかな橋の美学──保田與重郎『日本の橋』に宿る沈黙と言霊

ひそやかな橋の美学──保田與重郎『日本の橋』に宿る沈黙と言霊 橋とは、単なる交通の手段ではなく、人と人と、此岸と彼岸、日常と聖域を結ぶ象徴的存在であります。保田與重郎が昭和十四年に発表した『日本の橋』は、まさにそのような「橋」のかたちを通して…