常夏 四首
撫子の とこなつかしき 色を見ば もとの垣根を 人や尋ねむ
光源氏 ⇒ 玉鬘(贈歌)
【意訳】
撫子の花のごとく、常に心惹かれる美しさを持つあなたを拝見いたしますと、母君のことを内大臣にお尋ね遊ばされることと存じます。
※ここにおいて「とこなつかし(常に心が惹かれる)」と、「常夏(撫子の別名)」との言葉遊びが施されております。内大臣とは、前の頭中将であり、玉鬘の実父に当たります。
山賤の 垣ほに生ひし 撫子の もとの根ざしを 誰れか尋ねむ
玉鬘 ⇒ 光源氏(返歌)
【意訳】
山の貧しい垣根に生えた撫子のような私の母君など、誰が尋ねてくださることでございましょうか。
※自身を数にも入らぬ存在と謙遜している歌でございます。
近江の君 ⇒ 弘徽殿女御(贈歌)
【意訳】
未熟な者にございますが、いかがなものでございましょうか。何とか御身にお目にかかりたく存じます。
※「草若み」は自らを卑下する意が込められております。また、「いかが崎」(河内)・「田子の浦」(駿河)・「常陸の浦」と、関係性のない三箇所の地名が詠み込まれており、上下の文脈が一致しない歌となっております。
弘徽殿女御(代筆:中納言) ⇒ 近江の君(返歌)
【意訳】
常陸にございます駿河の海の須磨の浦に、どうぞお出かけくださいますよう。筥崎の松が御身をお待ち申し上げております。
※女房の中納言が、女御の代わりに詠んだ和歌でございます。「松」と「待つ」を掛けた語呂の遊びにより、「お待ち申し上げております」という意が込められております。

撫子の とこなつかしき 色を見ば もとの垣根を 人や尋ねむ
光源氏 ⇒ 玉鬘(贈歌)
言葉遊びの美しさ
・「とこなつかし(常に心惹かれる)」と「常夏(撫子の別名)」の掛詞が雅趣を強く感じさせ、朗読として耳に残る響きがあります。
情景の清らかさ
・撫子の花の色を見た瞬間、母君や内大臣の存在を想う静かな情景が、心の内面まで優雅に伝わります。
女性的な繊細さ
・・玉鬘の視点から見た「美しいものへの心惹かれ」と、母や父への気遣いの複雑な心理が、朗読に奥行きを与えます。
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