弥生のつごもりの日 雨のふりけるに 藤の花を折りて人につかはしける
濡れつつぞ
しひて折りつる 年のうちに
春はいくかも
あらじと思へば
(古今和歌集 巻第二 113)

過ぎてしまったのですが、旧暦の“弥生の晦日”が、5月1日にあたります。
他の業平の歌と同様、歌の中に対象を具体的に詠み込んでいないので、詞書がなければ折ったのが 「藤の花」だとはわかりません。
末日なのに 「いくかもあらじ」とは合わないように見えるため、「つごもりの日」を末日とは見ずに 「月こもりの日」の意味とする説もあります。
また本居宣長の「古今和歌集遠鏡」では、「春ハマダイクカモアルデハアルマイ モウ当年ノ内ニハ タツタケフ一日ナラデハ春ハナイ」と訳し、「何日もないだろう (すなわち今日で春は終わり)」という感じで見ていますが微妙なところでです。
ここでは 「つごもりの日」は末日とし、暦の春(=三月の末)が過ぎても実質の春がそこでぴたりと終わるわけではない、という見方から歌の意味は、濡れながらもあえて折りました、この年の春はもう幾日もないと思ったので、と解釈してみたいです。
また、この歌はどことなく21番の仁和帝(=光孝天皇)の「君がため 春の野にいでて 若菜つむ」という歌を思い出させます。それに合わせて 「雪に若菜、雨に藤」という趣向なのかもしれません。
業平の歌は自分の気持ちを率直に表現しているのが魅力だと思います。この歌でも、わざわざ雨に濡れながら、あなたのために藤の花を折ったのですよ、とはっきりと言っています。でもそれが嫌みには感じられません。
業平の人となりがとてもよく伺われる歌だと思います。

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