紅の深染めの衣を下に着ば人の見らくににほひ出でむかも
読人不知
(萬葉集 巻第十一 譬喩歌 2828)
Photo:毎年7月に行われる「山形紅花祭り」(紅花は山形県、山形市の花です)
くれなゐ (万葉表記 紅 呉藍 久礼奈為 ) 末摘花((うれつむはな)とも ベニバナ (キク科)
【赤は聖なる色】 赤い色は世界各地の習俗に見られるように、古来聖性を持ち悪魔の侵入を防ぐ力があると信じられてきました。生命の源は赤い色 ---- この感性は人間に共通のもののようです。赤い色を手に入れるには。
【鉱物を利用する】
古代の日本では朱色=丹(に)を珍重しました。この丹の色は辰砂(硫化水銀からなる鉱物)。防腐や防虫効果があり、古墳内簿の石棺の装飾や壁画を描くのに利用されています。
現在も吉野川(下流は紀ノ川)流域に辰砂を採取した丹生川の地名が残ります。吉野の地を古代王朝が聖地とした理由の一つでもありました。もうひとつ重要な赤は、天然に産する赤鉄鉱を用いた鉄丹(弁柄・ベンガラ)。旧石器時代から使われた最古の顔料で、これは地球上に一番多く存在する赤なのです。ラスコーやアルタミラの洞窟壁画を彩ったのがこの酸化鉄の赤。
【植物を利用して赤く染める】
紅花が染色材料としてシルクロードから高句麗を経由し、日本に伝来したのは推古朝の時代。 (『日本書紀』推古紀 六世紀終わりから七世紀初め)。
藍に先んじて伝わりましたが、染料としては藍と並ぶ最も大切なものです。(西の藍、東の紅花)
紅色は、紫と共に万葉人が憧れ魅了された高貴な色でした。丹と同じく虫除けや防腐効果があり、原産地のエジプトでは、ミイラを包む布をこの紅花から取り出した色素で赤く染めています。
紅花の持つ黄色い色素(サフロールイエロー)を除いたのち、灰汁で何度も洗い赤い色素(カルサミン)を定着させます。布から鮮やかな紅色が浮かび上がってくる時、万葉人の喜びはいかばかりだったでしょう。
またこの紅花から抽出した赤は、武運を鼓舞し戦国武将の晴れ姿を飾る色でした。今も春日大社には、源義家所用の大鎧が保存されていて、平安後期のものとは思えないほどの鮮やかな色が残ります。
- 価格: 999 円
- 楽天で詳細を見る
PR