新古今和歌集巻第六冬歌 570

月を待つ高嶺の

雲は晴れにけり

心あるべき

初時雨かな

西行法師

(新古今和歌集巻第六冬歌 570）

――月の出を心待ちにしていると、

　　　　　高嶺に掛かっていた雲が晴れ渡って時雨も止んだよ。

　　　　　なんと人の情を解する初時雨であることよ…

　　　　　「心あるべき」…人情をよく解する。

　時雨を擬人化して、なんと人情深いことか、と歓びをしっとりとした抒情の中で表白しています。

　時雨というしっとりした叙景と雰囲気がうまくマッチしていて、一幅の絵画として我々の前に現出。

　三句切れがさりげなく生かされており、さて、下句に一体どんな世界が来るのだろうか、と期待感を搔き立たます。

　この三句目、「晴れにけり」　は　家集の　「西行上人集」　では　「心ありける」　と連体形なっていますが、読み比べてみると、「ける」　ではやはり弱い。これがおそらく西行のオリジナルだと思いますが、人工に膾炙されてゆくうちに、「けり」　と終止形にして句切れにした方がより印象は鮮やかになる、といつしか改稿されたのでしょうか。

　あるいは、『新古今集』　の編者・撰者による改変だったかもしれません。この断定的な終止形だからこそ、一首がキリリと引き締まり、印象深くなることは明らかでしょう。

　尚、現代語の　「けりをつける」　という成句は、この古典語の　「けり」　に由来し、「けりを付けて断定する」　という意。

この一首、まさに　「ける」　と曖昧ではなく、はっきり　「けりをつけた」　好例。

　何かに隠されていたものが、その何かがなくなって見えるようになって嬉しく感じたことは日常でよく経験するところでしょう。(*◡̈)

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