泊瀬の朝倉の宮に天の下知らしめす天皇の代
篭もよみ篭持ち堀串もよみ堀串持ちこの岡に菜摘ます子家聞かな告らさねそらみつ
大和の国はおしなべて我れこそ居れしきなべて我れこそ座せ我れこそば
告らめ家をも名をも
(萬葉集 巻第一 1)
書 多紀理
歌詠 多岐都
万葉集の巻一の最初に詠われているのがこの歌である。
大泊瀬稚武天皇とは第21代雄略天皇のことで、允恭天皇の第5皇子、安康天皇の同母弟である。安康天皇が眉輪王に殺害されたため、雄略天皇はふたりの兄八釣白彦皇子と坂合黒彦皇子と眉輪王の関係を疑い、三人とも殺してしまった。また、安康天皇に後継として指名されていた従兄弟の市辺押磐皇子を狩に誘って射殺してしまった。
このように残虐な殺戮の結果で天皇になったという雄略天皇が、万葉集では巻頭の歌を詠む。しかも若い娘さんに声をかけて(今流にいえばナンパして)求婚するという歌である。強奪するのではなく、ちゃんと自分の名と身分を明かして求愛しているところは許されるかもしれないが、やっぱり残忍な雄略天皇ではこの歌は似合わない。
その通りで、学者の方の見解によると、もともと求婚のための民謡歌のようなものがあって、歌い継がれてきたものを古代の象徴する天皇の名でまとめたものであろうという。
親兄弟であろうと油断できない当時の人間関係を思えば、雄略天皇とて自身を守るために必死に戦ったのであろうし、また、可愛い女性をみれば恋もしたのであろう。記紀の天皇は許されないが、万葉集の天皇はちゃんと求愛の礼儀を知った恋多き天皇として認めてあげようと思う。万葉集の相聞歌は私たちをうきうきさせてくれるもので、血なまぐさいものであってはならないから。
雄略天皇の泊瀬朝倉宮についてはいくつかの候補地があり、伝承地は桜井市黒埼の白山神社の東北の山腹、また桜井市上岩坂の十二神社の境内地辺りなどである。また、写真「万葉集發燿讃仰碑」がある桜井市黒埼の白山神社も候補地といえるそうだ。境内にはこの歌の万葉歌碑もある。
万葉集はここから始まる。
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