萬葉集 巻第ニ 142
自ら傷みて松が枝を結ぶ歌二首
家にあれば笥に
盛る飯を草枕
旅にしあれば
椎の葉に盛る

教科書『国語総合』(第一学習社)の訳
有間皇子が自ら悲しんで松の枝を結ぶときの歌
家にいるといつも食器に盛る飯を旅にいるので椎の葉に盛ることだよ。
意訳
題詞:有間皇子が騙されたと悟り、命の無事を祈りながら詠んだ二首のうち、第二首
作者:有間皇子
亡き父や、味方となるべき方々がそばにおられたならば、日ごとに言葉を選びつつ、慎ましやかに周囲の様子を伺っていたことでしょうに。
けれども今、草枕の旅の空、その場かぎりの甘言に乗せられ、天皇のおわします地へと送られる身となりました。
心のうちに秘めていた思いが、いつの間にか明るみに出てしまったのです。
ああ、騙された悔しさと、あまりに深いこの悲しみよ――。
解説
本歌は『萬葉集』巻第二の第142番歌にあたるもので、前歌(第141番)と対を成しています。今回は、教科書(第一学習社『国語総合』)に第二首のみ掲載されていたことから、こちらの歌を先に取り上げます。
背景には、七世紀中葉に起こった一つの悲劇がございます。
斉明天皇が中大兄皇子らとともに牟婁(むろ)の温泉へ行幸なされた際のことでございます(西暦658年)。
その間、都に残って政務を預かっていた蘇我赤兄が、有間皇子のもとを訪れ、天皇の失政を挙げて謀反をそそのかします。
若き有間皇子は、その言葉の裏を見抜けず、「我が生涯で初めて兵を動かす時が来た」と応じてしまいます。
しかしそれは、赤兄が仕掛けた巧妙な謀略でありました。
まもなく皇子は捕らえられ、天皇の行在所である牟婁へと送られ、藤白坂にて絞首の刑に処せられる運命となります。
この事件は、中大兄皇子と赤兄とが結託した政略の一端であり、有間皇子は、その清らかなる心を弄ばれ、
ついには命を奪われた、若き犠牲者であったと考えられております。
「あかねさす紫野ゆき標野ゆき 野守は見ずや君が袖振る」――にも、中大兄皇子が「人の心を掌中に収め、己の思うままに操る人物」として描かれております。
このように、歌の背後には深く哀しき政争の影が差しており、の短き生涯は、ひとつの時代の闇を浮かび上がらせているのでございます。
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